2018-03-17

神輿を担ぐだけが祭りじゃない。その先の日常を見つめる店ー三ツ矢酒店【PR】

今の若い人は「話に飢えている」

西荻っていう街は、どうなんだろうな…戦後、闇市やバラックから始まって、どんどん小売り屋さんが増えて、住宅も増えて、そんで発展してきたんだけど。スーパーマーケットができたりして、商人が淘汰されてきて。昔あったような店屋さんがなくなって、おしゃれな小物だとか、食べ物屋さんが増えてきたね、この頃。だって、この通りだってびっしり商人がいたからさ。夕方になると、「おう、どうだい調子は?」なんて声かける店がいっぱいあったんだけどさ、今そんなとこないもんね。気軽に遊びに行けるような店が。さみしいよ、商人がいなくなっちゃって。朝10時から働いてるけど、俺も歳だからさ、夕方5時ごろになると飽きちゃうんだわ(笑) 昔だったらさ、ひょーいと出かけて行っちゃってさ、どっかの店に寄り込んでさ、話なんかできたんだけどさ。そういう寄り込んで話せる店が無くなっちゃったよね。

―私の祖母のお店はタバコ屋さんだったので、やっぱり近所の人がよく話し込んでましたね(笑) ちっちゃい丸椅子を店に置いて。

タバコ屋さんなんて昔はサロンみたいなもんだもんね。みんな寄り込んで遊んでたよ。お座敷なんか付いててさ、碁を打ったり、将棋を指したりさ。そういう昔の店屋さんの風情がなくなっちゃったよね。

―商売をしていても、そこに人間関係がなかったりしますよね。

そうそうそう。商店街の寄り合いなんていうのも、集まるのは年寄りだけ。若い人は忙しいのか何か、あんまり集まって来ないよね。私も商店会長を10年やってたけど、その頃はまだ仲間も若い人もけっこういたからさ。今なんかもう大変だよ、商店会を運営していくのは。だから、皆さんみたいにさ、利益にならないのにさ、こうやって集まって西荻を盛り立ててくれるのはうれしいよね、年寄りはね。

―住んでいる人は増えてるし、新しいお店もできているけれど、古いものと新しいものの間になかなか交流がないんですね。

本当に、挨拶ということがなくなっちゃってるよ、今の西荻。「おーっす」、「おはよう」、「今日は寒いね」とか時候の挨拶は言わないもんね。俺は店で時候の挨拶を言ってるよ(笑)。「今日は寒いですねー」とかさ。そういう一言があると、仏頂面してる人もけっこう話し込んでくるんだよね。昔は商人や商店街の中ではそういう会話がたくさんあったんだけどさ。今はない。皆さんもそうかもしれないけど、商人のところ行って話し込むというと、もう特定の店しかないでしょ?

―なかなか気軽には…お話してもいいのかなと迷ってしまうところはあると思います。

今の人たちってさ、本当は話したいんだよね。自宅の前にワンルームマンションがあって、朝が私は目覚めるのが早いからさ、玄関でタバコ吸ってたりして、通る若い人に「おはようー」なんて言うと、喜ぶんだよね。「あ、おはようございます!」って、びっくりした顔してさ。なんか話に飢えてるみたいね、でもきっとマンションの中でも隣の人とは話さないんだよな。

―絶対話さないです!逆に警戒心があるくらい(笑)。引っ越したとき、不動産屋さんに「お隣さんへの挨拶は行かない方がいいです」って言われて…さびしいなと思いました。

昔はさ、引っ越しそばって言ってさ、向こう三軒隣くらいまで「そば券」ていうの配ったんだよ。たとえば、かけうどん一杯とか。そういう券を何枚か持って挨拶にいったもんだよ。そんなの今あってもいいと思うんだよね。ちょっと話は違うかもしれないけど、西荻ラバーズフェスなんていうのはそういう会話というかコミュニケーションがどんどん生まれるきっかけになるといいよね。

―そうですね!お店とお客さんも、お店同士も。

今これから新しくやってるお店なんかには、お客さんと親しくすることが大事だと伝えたいよね。店の外で会っても挨拶するとかさ。顔なじみだったらね。俺みたいな年寄りは顔は覚えてても名前忘れちゃうんだ(笑)。でも、どこかで会って挨拶されるといいもんだよね!きっと商売人でなくてもそうだと思うよ。だからそういうところも含めて、西荻ラバーズフェスにはどんどん発展してもらいたいよなぁ。

ほっとする街、西荻窪

―先週、和田サイクルさんにも聞いたのですが、西荻のいいところって何ですか?

西荻のいい所はね、商店が表方にあって、裏に入るとすぐ閑静なんだよ。で、道も割とくねくねしないで直線になっていて。それと、お医者さんが多いことだろうな。安心。それと意外にね、明るいよな。夜なんかも街路灯がしっかり点いてたりして。今は若いお嬢さんなんかも遅い時間に帰ってくるからね。引っ越した人が言ってたけど、西荻は駅前は賑やかだけど、帰るとすぐにほっとするんだって。吉祥寺や荻窪とは一駅違うだけでずいぶん感じが違うみたいだね。あと、こないだも、都心の街から来た人が「西荻の街って面白いですね」って言ってたね。「何が面白いの?」って聞いたら「こんな小さなお店がいっぱいあって」って。今はマンション群とかには店がないからちっとも面白くないし、住んで勤め先に行くには誠に便利だけども、買い物なんて大変だって言ってたね。住んでる俺らにはぴんと来ないけど…これが当たり前だから(笑)

―こんなに商店街がたくさんある場所ってなかなか無いですよね。

そうだね。えーっと、正式には27商店街ある。

―そんなにあるんですね。各商店街、御神輿も担ぎますもんね。

昔は御神輿担ぐって言ったら人手も集まったけど、今はね。御神輿担ぐ人は来るんだけど、その準備段階と後片付けで人がいねぇんだよ。だから苦労しちゃうんだよ。戦後はみんな職がないからさ、商人の所に就職に来る人が多くて、人手もたくさんあったな。集団就職って言葉、知ってる?中学校出てすぐ来るんだよ。俺たちと同じくらいの年齢の子が2人くらい来てさ。なんだか辛かったよ、見ていて。そういう時代があったよ。

―ちょっと話は戻りますが、かつてお兄さんが全国の酒蔵を回ってこれだけお店が大きくなって、今は全国の酒蔵さんが三ツ矢さんに「取り扱ってください」と言われることが多くなってきていると思うんですけど。

たしかにこっちから行ったけどさ、地方の酒蔵は東京を当てにしてなかったんだよね、地元でうんと売れてたから。ところがさ、今は地元が人が少ないでしょ。だから東京に、どの蔵元も来るわけ。もちろんこっちからも蔵元へ行くけれど、時期になると大変だよ。今も上の階で試飲会やってるけどね。地酒専門店てね、意外に駅から離れたところにあることが多いんだよ。うちは駅から近いから、地方の蔵元は来やすいんだって。その点は恵まれてる。

―立地もですけど、この街での三ツ矢さんの存在意義というか、魅力があるからこそというのもありますよね。

ただ古いだけだよ(笑) だから俺、店の看板作るときさ、「大正15年」てのは書こうと思ったの。西荻でも一番古くはなってきたかもしれないよ。もう古い人みんないなくなっちゃったからね。喜久屋さんも、こけし屋さんも、戦後だからね。だからもう、この頃、街歩いていても挨拶する人がいないもん、商人でね。住民の人も、昔からいる人は年を取って出歩かなくなったり、亡くなったりして、挨拶する人が減ったけどね。

―新しく挨拶できる人を増やしたいですね!

そうだね。でも、俺なんか増やしてる方じゃないかな!表でタバコ吸って「おーい!」なんてすぐ声かけちゃうから(笑) 若い子でも誰でも。


大正15年から、改築などを経ながら西荻の街の見守ってきた店舗。店の2階では、定期的に各地の酒蔵が期間限定で試飲会を行っている。

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